分析報告書の「石綿 不検出」という一行を見て、安心してしまう。
気持ちは分かりますが、この一行は「石綿が0.1%を超えて含まれていない」ことを必ずしも意味しません。
定性分析と定量分析は、答えている問いが違うからです。
現場で問題になるのは、0.1%という線の前後です。どちらとも言い切れないとき、追加で何を見るのか。分析の原理と報告書の読み方を押さえておくと、判断を誤りにくくなります。
※本稿は2026年10月時点の法令・公的資料に基づいています。
定性分析と定量分析は、何を答えているか
定性分析が答えるのは「石綿が含まれているか、含まれているならどの種類か」です。
定量分析が答えるのは「どれくらいの割合で含まれているか」です。
上位と下位の関係ではなく、目的が違います。
| 分析 | 答えること | 主な方法 | 結果の例 |
|---|---|---|---|
| 定性分析 | 石綿の有無と種類 | 偏光顕微鏡、X線回折+位相差・分散顕微鏡 | クリソタイル検出/不検出 |
| 定量分析 | 含有率(質量%) | X線回折法、重量法・顕微鏡法 | 0.3%/0.05%/0.1%未満 |
定性分析の方法
現在の標準はJIS A 1481の規格群です。
定性分析には2つの系統があります。
JIS A 1481-1は、実体顕微鏡、偏光顕微鏡、電子顕微鏡を使って、繊維の形態と光学特性から石綿を同定する方法です。
JIS A 1481-2は、X線回折装置と位相差・分散顕微鏡を併用する方法で、結晶構造と光学特性の両面から判定します。
厚生労働省の「石綿則に基づく事前調査のアスベスト分析マニュアル」では、この2つに電子顕微鏡法を加えた3つの定性分析方法と、2つの定量分析方法が整理されています。
分析機関は、試料の状態に応じて最適な方法を選ぶことが求められます。
定量分析の方法
定量分析は、JIS A 1481-3(X線回折法)、JIS A 1481-4(重量法および顕微鏡法)、JIS A 1481-5(X線回折法、2021年制定)に分かれます。
建材中の石綿含有率を質量百分率で求めるもので、0.1%前後を測定するには、試料の粉砕、分粒、検量線の作り方が結果を左右します。
同じ試料を別の機関に出すと数値が変わる、という話を聞いたことがあるかもしれません。
装置の性能や前処理の丁寧さで差が出る領域です。
数値の桁だけでなく、どの方法で分析したかまで確認したいところです。
0.1%という線
石綿則が対象とする「石綿等」は、クリソタイル等を重量の0.1%を超えて含有する物です。
この基準は2006年9月に1%から0.1%へ引き下げられました。
つまり、それ以前の分析結果と、現在の分析結果をそのまま比べることはできません。
もう一つ混同しやすいのが、検出限界です。
「不検出」は「検出限界未満」という意味であって、ゼロという意味ではありません。
報告書には、使用した分析法と検出限界が書かれているはずです。
そこを見ずに「石綿なし」と要約してしまうと、後で説明がつかなくなります。
定性分析で判断がつかないケース
- 含有率が0.1%の前後で、微量すぎて顕微鏡で拾いきれない
- 材料が不均一で、補修跡や異なるロットが混ざっている
- 塗膜の下、ボードの層など、重層になっていて試料を分けにくい
- 炭酸カルシウムやタルクなど、X線のピークが重なる物質が入っている
- 6種類のうち、含有量がごく少ない石綿(トレモライト等)を見落とす
- 2008年2月以前の分析で、3種類しか対象にしていなかった
最後の項目は、古い報告書を流用するときに効いてきます。
2008年2月以降、分析対象は6種類に広がりました。
それ以前の「石綿なし」は、トレモライト、アクチノライト、アンソフィライトが調べられていない可能性があります。
追加の定量分析を検討する判断基準
定性分析の結果だけで進めるか、定量分析を足すか。判断の目安は次のとおりです。
- 定性で「不検出」だが、建材の年代や用途から含有が疑わしい
- 定性で「含有」と出たが、0.1%超かを確定させたい
- 複数の機関で結果が割れた、または再分析で変わった
- 行政の立入りや元請の監査で、含有率の提示を求められた
- 解体後の廃棄物について、受入先から含有率の記載を求められた
3番目は意外と多いケースです。
同じ検体で結果が割れたときは、どちらかの数値だけを採用するのではなく、分析法と前処理の違いを確認します。
それでも決まらなければ、みなしで安全側に倒す判断もあります。
定量分析で0.1%未満だったとしても、石綿がゼロになったわけではありません。
粉じん対策は含有率だけで決めず、作業の内容と飛散のしやすさで考えます。
分析結果の読み方
| 報告書の表示 | 意味 | 実務での扱い |
|---|---|---|
| 石綿検出(種類の記載あり) | 石綿が含まれている | 定量せず0.1%超として扱える場合がある |
| 0.1%超 | 基準を超えて含有 | 特定建築材料として規制対象 |
| 0.1%以下 | 基準以下 | 規制対象外だが、廃棄物の区分は別途確認 |
| 不検出 | 検出限界未満 | 試料の代表性と分析範囲を確認 |
| 判定不能 | 干渉や試料不足で判断できない | 再分析、または含有とみなす |
「不検出」と「0.1%以下」は似て非なるものです。
前者は分析の限界の話、後者は基準との比較の話です。
報告書を社内で共有するときは、この違いを省略しないほうが安全です。
よくある質問
定性分析で「石綿あり」と出たら、定量分析は不要ですか。
石綿則上は、定性分析で石綿が確認された場合、定量分析を行わずに0.1%超として扱うことが可能です(平成26年3月31日基安化発0331第3号)。
ただし、発注者の仕様や廃棄物の受入条件で含有率が必要とされる場合は、定量分析を追加します。
「不検出」の報告書は、そのまま使えますか。
採取位置、検体数、分析機関、分析日、準拠したJISの版を確認してください。
今回の工事範囲と調査範囲が一致していなければ、たとえ「不検出」でも追加調査が必要です。
古い報告書は、分析対象が3種類だった可能性もあります。
定量分析はどこに頼めばよいですか。
JIS A 1481に基づく分析実績があり、厚生労働省の分析マニュアルに対応している機関を選びます。
依頼時には、必要な分析方法(定性のみか、定量までか)と、報告書に記載してほしい項目を伝えておくと、後で作り直しになりません。
まとめ
定性分析は「あるかないか」、定量分析は「どれくらい」を答えるものです。
どちらか一方で全部が分かるわけではありません。
0.1%の判断がつかないときは、まず試料の代表性を疑ってください。
1検体の結果で現場全体を語ろうとすると、必ずどこかで無理が出ます。
報告書は、結論の一行ではなく、方法と前提まで読む。
これが、分析結果を根拠として使えるかどうかの分かれ目になります。
参考資料
JIS A 1481-1~-5(建材製品中のアスベスト含有率測定方法)
厚生労働省「石綿則に基づく事前調査のアスベスト分析マニュアル」
厚生労働省「建材の石綿分析」(石綿総合情報ポータルサイト掲載資料)
石綿障害予防規則第2条・第3条/e-Gov法令検索


