「事前調査が不要な工事だから、報告もしていません」。
この説明は、二つの点で危うい。
一つは「不要」の判断そのもの。
もう一つは、国の制度と自治体の制度が重なっている点です。
国の報告義務は、調査を行ったことが前提になります。
しかし、調査が不要に見える工事でも、別の制度の届出が必要になることがあります。
ここでは、制度の境目と、見落としやすい自治体ルールを整理します。
※本稿は2026年10月時点の法令・公的資料に基づいています。
国の制度では「調査不要」なら報告も不要
大気汚染防止法第18条の15第6項は、解体等工事の元請業者または自主施工者が調査を行ったとき、その結果を都道府県知事に報告することを求めています。
調査自体が不要な工事は、この報告の対象外です。
条文を読む限り、筋は通っています。
ただし、ここには二つの落とし穴があります。
一つは、報告が必要かどうかは「調査の有無」だけでなく「規模要件」でも決まること。
もう一つは、「不要」と判断した根拠が問われることです。
「石綿なし」でも報告は必要
これが最大の誤解です。報告は、特定建築材料が使用されている場合だけではありません。
規模要件を満たす工事であれば、石綿が含まれていないという結果でも報告します。
「石綿なし」の報告をしていない現場は、立入検査で即座に分かります。
報告システムには工事の基本情報と調査結果が残りますから、報告がないこと自体が記録として残る。
後から辻褄を合わせることはできません。
着工日の確認方法
| 工事の種類 | 要件 | 注意点 |
|---|---|---|
| 建築物の解体 | 解体する部分の床面積の合計80㎡以上 | 延べ面積ではなく、解体する部分 |
| 建築物の改修 | 請負代金の合計100万円以上(税込) | 材料費込み、調査費は除く |
| 工作物の解体・改修 | 請負代金の合計100万円以上(税込) | 特定工作物が対象 |
分割発注にも注意が必要です。
解体、改造、補修の工事を同一の者が2以上の契約に分割して請け負う場合、一の契約で請け負ったものとみなされます。
小規模に分ければ報告不要、という逃げ方はできません。
80㎡は、建築物全体の延べ面積ではありません。
解体する部分の床面積の合計です。
部分解体で80㎡を超えるなら対象になります。
見落としやすい自治体ルール
国よりも上乗せの規制をかけている自治体があります。
東京都を例に取ると、環境確保条例に基づく届出が別に必要です。
- 石綿飛散防止方法等計画届出書(作業開始の14日前まで)
- 対象は、石綿含有吹付け材の面積が15㎡以上、または建築物の延べ面積が500㎡以上
- 条例の届出対象工事では、作業前・作業中・作業後の大気中石綿濃度測定が必要
- 大気汚染防止法の特定粉じん排出等作業実施届出書も、別に14日前までに提出
届出先も一つではありません。
都道府県、保健所、区市。現場の住所によって変わります。
報告システムが申請先を自動で選ぶ場合もありますが、選ばれないときは手動で選ぶ必要があります。
東京都以外でも、条例や要綱で独自の届出や事前相談を求めている自治体があります。
着工前に一度、現場を所管する環境担当部署に確認しておくと、後で慌てません。
国の報告システムに出したから安心、ではありません。
自治体の条例は別建てです。
同じ工事でも、出す先が2つ、3つと増えることがあります。
報告以外に残る義務
事前調査の結果を報告したとしても、それで終わりではありません。
現場に残る義務があります。
- 調査結果の現場掲示(石綿の有無にかかわらず)
- 調査記録の3年間保存
- 発注者への書面による説明
- 建設リサイクル法に基づく分別解体等の届出(解体部分80㎡以上)
- 石綿含有産業廃棄物のマニフェスト交付
掲示と記録が抜けている現場は、思った以上に多いです。
報告だけ済ませて安心していると、立入りで指摘されます。
2026年1月からの工作物
工作物の事前調査も、2026年1月1日以降に着工する工事から、工作物石綿事前調査者などによる実施が義務づけられました。
建築物との境目、特定工作物に当たるかどうかの判断が、実務の新しい論点になっています。
報告対象は、工作物の解体・改修で請負代金100万円以上。
配管、ボイラー、煙突、プラントなど、建築物の外側にある設備が対象です。
建築物として扱っていたものが、実は工作物だった、という逆の取り違えも起きます。
「不要」と判断した工事の記録
調査を省略した工事は、判断の根拠を残します。着工日を確認した書類、軽微な作業と判断した理由、写真、判断した者。
後から「なぜ調査しなかったのか」を説明できる状態にしておきます。
記録がなければ、行政としては「調査していない」と見なすしかありません。
説明の材料を、着工前に揃えておく。
これが一番の予防になります。
よくある質問
個人宅のリフォームでも、報告は必要ですか。
必要です。
請負代金の合計が100万円(税込)以上であれば、個人宅も報告対象になります。
住宅のリフォームや解体も例外ではありません。
80㎡未満の解体なら、何もしなくてよいですか。
報告は不要ですが、事前調査そのものは必要です。
記録の保存、現場掲示、発注者への説明も残ります。
自治体の条例で届出が求められる場合もあるため、規模だけで判断しないでください。
「石綿なし」の結果でも報告するのですか。
します。
特定建築材料の有無にかかわらず、規模要件を満たせば報告が必要です。
ここを「石綿があるときだけ」と誤解している業者が少なくありません。
まとめ
国の制度では、調査が不要なら報告も不要です。
ただし「不要」の判断が誤っていれば、それは報告漏れになります。
「石綿なし」でも、規模要件を満たせば報告は必要です。ここが最も多い誤解です。
自治体の条例は別建てです。国の報告を出したかどうかと、条例の届出を出したかどうかは、別に確認してください。
参考資料
大気汚染防止法第18条の15・第18条の17・第35条/e-Gov法令検索
環境省「石綿事前調査結果の報告について」
東京都環境局「建築物等の解体等工事におけるアスベスト対策の概要」
厚生労働省「改正石綿則のポイント」(石綿総合情報ポータルサイト)


