石綿分析結果の「不検出」を信じていいのか?偽陰性を防ぐ検体採取の鉄則と分析機関の選び方 | 株式会社テクノアップ・ライズ

石綿分析結果の「不検出」を信じていいのか?
偽陰性を防ぐ検体採取の鉄則と分析機関の選び方

分析機関から届いた報告書に「石綿 不検出」とある。
この一行で、現場は「なし」として動き出します。
ただ、この判定が正しいかどうかは、実は分析の前の段階でほとんど決まっています。

偽陰性、つまり本当は含まれているのに「なし」と出てしまうケースは、分析機器の性能より、検体の取り方と前処理で起きます。
ここでは、どこで偽陰性が生まれるのか、そして分析機関をどう選ぶのかを整理します。

「不検出」が意味するもの

報告書の「不検出」は、石綿がゼロという意味ではありません。
その分析方法の検出限界を下回った、という意味です。
つまり、限界値以下の含有は、存在していても「不検出」と表示されます。

もう一つ重要なのは、分析対象が6種類の石綿すべてかどうかです。
2008年2月以降、分析対象はクリソタイル、アモサイト、クロシドライトに、トレモライト、アクチノライト、アンソフィライトを加えた6種類になりました。
それ以前の報告書は3種類しか見ていない可能性があります。

除斥期間という時間の壁

場面 何が起きるか 見分け方
採取位置が偏っている 補修跡や別ロットを外す 写真と図面の位置が一致しているか
1検体にまとめた 異なる材料を混合し、含有率が薄まる 材料ごとに検体番号が分かれているか
表層だけを採取した 塗膜・化粧層の下の石綿層を外す 層構成の断面写真があるか
前処理が不十分 粗い粒子が残り、回折強度が下がる 粉砕・分粒の条件が報告書にあるか

一番多いのは、1番目と2番目です。
同じ「けい酸カルシウム板」でも、1階と5階、竣工時と改修時では別の材料です。
それを1検体にまとめると、含有率が半分以下に薄まり、0.1%を下回ることがあります。

検体採取の鉄則

国土交通省の「建築物石綿含有建材調査マニュアル」では、1,000㎡以下の建築物の調査で、試料採取は2検体を基本とする考え方が示されています。
ただし、これは下限の目安であって、現場の実態に応じて増やすべきものです。

  1. 材料ごとに分ける。名称が同じでも、施工時期・部位・ロットが違えば別検体
  2. 層ごとに分ける。塗膜、下地、ボード、接着剤は、それぞれ別の材料として扱う
  3. 補修跡は別検体にする。上から張り直した部分は、当初材と別物
  4. 湿潤化して採取する。乾いた状態で削ると、石綿が飛び、検体も偏る
  5. 写真を3種類撮る。引き、材料のアップ、層構成の断面
  6. 採取位置を図面に落とす。検体番号と写真番号を紐づける

6番目は地味ですが、効果が大きい。
後から「この検体はどこから採ったのか」を確認できるだけで、報告書の重みが変わります。

分析機関の選び方

分析機関は、価格と納期で選ばれがちです。
ただ、石綿分析は前処理と判定の丁寧さで結果が変わる領域です。次の点を確認してください。

  • JIS A 1481の規格群に対応し、どの版で分析するかを明示できる
  • 厚生労働省の「石綿則に基づく事前調査のアスベスト分析マニュアル」に沿っている
  • 定性分析の方法(偏光顕微鏡法か、X線回折+位相差・分散顕微鏡法か)を選べる
  • 「不検出」の場合、検出限界と判定の根拠を記載する
  • 再分析や追加分析の受付ができる
  • 内部精度管理(標準試料による確認)の体制がある

特に4番目は重要です。
「不検出」とだけ書かれた報告書は、判断の材料になりません。
検出限界と、どうやってその結論に至ったかが書かれているかを見ます。

判断がつかないときの選択肢

定性分析で「不検出」だったが、建材の年代や用途から含有が疑わしい。
このときは、3つの道があります。
再サンプリングして別の方法で分析する。
定量分析を追加する。
そして、石綿が使用されているものとみなして措置を講じる。

石綿則第3条第5項のただし書きは、みなしで労働安全衛生法上の措置を講じる場合、分析調査を省略できるとしています。
費用はかかりますが、判断の不確実性を消せるという意味では、最も安全な選択です。

「不検出」は結論ではなく、条件つきの観測結果です。
どの検体を、どう採り、どの方法で、どの限界まで見たのか。
この4点が揃って初めて、根拠として使えます。

報告書を読むときのチェックリスト

届いた報告書は、結論の前に次の項目を確認します。
分析日、分析機関名、担当者、準拠した規格の版、試料の採取位置、検体数、分析方法、検出限界。
これらが揃っていない報告書は、社内稟議に添付しないほうが安全です。

古い報告書を流用する場合は、なおさらです。
今回の工事範囲と調査範囲が一致しているか、分析対象が6種類か、0.1%基準で判定しているか。
ここを確認せずに使うと、後で覆ることになります。

よくある質問

1検体だけ分析して「不検出」でした。これで十分ですか。

材料の種類と施工時期が単一で、範囲も狭い場合は判断材料になります。
ただ、複数の材料や改修履歴がある現場では、1検体では代表性を担保できません。
材料ごとに分けて採取してください。

分析機関によって結果が違うことはありますか。

あります。前処理の方法、検量線の作り方、装置の性能で差が出ます。
特に0.1%前後では差が顕著です。
結果が割れた場合は、どちらかを採用するのではなく、分析法と前処理の違いを確認してください。

「不検出」でも報告は必要ですか。

規模要件を満たす工事であれば必要です。
石綿が含まれていないという結果でも、事前調査の結果として報告します。
報告をしていないと、立入検査で即座に分かります。

まとめ

「不検出」はゼロではありません。
検出限界未満という意味であり、条件つきの結果です。

偽陰性の多くは、分析の前の段階で生まれます。
検体の分け方、層の分け方、補修跡の扱い。ここを丁寧にするだけで精度は上がります。

分析機関は、価格ではなく、方法と限界を書けるかで選ぶ。
報告書に検出限界がないなら、その時点で判断の材料になりません。

 

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